「橙伽、……そろそろ行く。」
薔薇の香りが俺を呼んでいた。
行くのは今…だ。
「若様、先ほど気になる報告がございました。
紫月が…いなくなる直前だったのですが、真神の書庫で古い記述を載せた古書が幾つか持ち去れております。
ここ暫くの混乱に報告が遅れるという情けない話しなのですが…」
「内容はどんなものだ?」
俺の問いかけに橙伽は微かに眉を寄せた。
「それが、《転生》や《生まれ変わり》…などに関する現実離れしたものばかりが数点……と。」
「《転生》…?」
それに胸がざわめいた。
あいつは何を考えてる……?
黒い毛皮を夜の闇に溶かし、ざわつく胸を誤魔化すように力強く地を蹴った。