「紫炎様が姫君にお贈りになられたあの薔薇は他の薔薇に比べて香りがとても高い薔薇です。
姫君にはその薔薇の香りが強く残っておられるはず。
それを頼りに我々の鼻を使えば姫君に必ずやたどり着けましょう。
…そして、若様が姫君を抱いた事実が姫君を守ります。」
俺が、祈咲を抱いた事実が……?
「我々人狼は花嫁を唯一無二に考えます。
他の者の匂いのついた女性など普通は考えられません。
…しかしながら紫月は特殊…ですが、あれも人狼に違いはありません。
貴方様の香りを残した姫君に無体な真似など出来ようがありません。」
「………っ!」
――――『直感により運命が巡る』
橙伽の言葉が脳裏を過る。
「さすがは紫炎爺の直感だ……。
それに、俺の直感も捨てたもんじゃねぇ……。」
ニヤリ…思わず笑みがこぼれた。
「ただし、若様の香りがもつのは長くとも一週間。
その間に姫君を取り戻さなければ……終わりです。」
拳をきつく握りしめ、奮える心を抑える。
「…上等だ。
必ずそれまでに薔薇の香りを追って、……祈咲を取り戻す。」