「さて、若様で遊ぶのはこの辺にして…本題といきましょうか。」
「……遊ぶ……。」
サラリとそんなことまで言って、呆然とする俺に…うって変わったように真剣な瞳を向けた。
「…これを。」
「薔薇……?」
橙伽が取り出したのは折れてしまった一輪のピンクの薔薇だった。
「姫君は連れ去られる前に、紫炎(シエン)様に偶然お会いになっておられたようです。」
「紫炎爺に……?」
それは紅と蒼の実の祖父である男の名だった。
…そして、紫月の実の父親だ。
俺の祖父である夜一の弟でもあり、人狼としての力にも優れた人物だが…庭いじりが趣味で穏やかな人柄の人格者だ。
その人と…祈咲が……?
「お散歩の途中に偶然に。
花を嬉しそうに見られていたので、紫炎様が持ってゆかれるようにおっしゃったらしいのですが…
姫君はどうかこのままでとお断りになったようで、紫炎様はその優しさに感心されたそうです。」
「………。」
聞いて、納得した。
美しく咲く花を切り取るのを可哀想とでも思ったんだろう……。
おまえらしいな……祈咲。