今朝までは、間違いなくこの腕の中にいた
愛しい俺の花嫁……。
『…ずっと待ってる…』
…約束、したじゃねぇか……。
おまえは今……どこで、どんな思いでいるんだ?
熱い身体が……急激に冷えていく。
グッと拳を握りしめる。
前を見据えて、……立ち上がる。
黒い毛皮に覆われていた身体は、暴れたおかげで切傷や痣だらけの無様なもんだったけど……人の身体に戻った。
「………。」
…フーーー…長い息をつく。
「いるんだろうが………橙伽。」
前を見据えたままで、静かに声をかけた。
――――カサリ…
木立が微かに音をたて…
陽の光をそのままうつしたような瞳をした狼が現れた。
「待ちくたびれましたよ……。
話したいことがあります。……お急ぎを。」
「有能な側近を持って心底幸せだよ。
…さっさと話せ。」
乱暴に目の上の傷から流れる血を腕で拭った。
世界は元通りの色を映し……
俺の頭は冴え渡る。
――――熱はひいた。
待ってろ………祈咲。