「本当に、さすがは若様が選ばれた花嫁。

…では、これだけどうかお持ち戴けますかな?」



おじいさんは咲き綻びかけた薄いピンクの薔薇を一輪摘み取ると、丁寧に棘を落としてあたしに差し出した。



「綺麗……!

それにすごくいい匂いですね……。

…頂いていいんですか?」



淡く優しい色の可愛らしい一輪のそれからは甘く可憐な芳香が強く香った。



「貴女にぴったりな花ですから。

花が貴女の元に行きたいと言っているかのようですよ。

私からの《お祝い》に。

辛いこともございましょうが、若様を信じてゆけば…きっと全て、うまくゆきましょう。」



「………っ。……ありがとうございます……。」



優しい眼差しと声に胸の奥がじぃんとした……。



「若様ほどとは言いませんが、年輪を経た直感は侮れませんぞ…?」



「………!」



いたずらっぽく片目を閉じたおじいさんに笑顔をこぼして



あたしはまたよくお礼をするとおじいさんと別れて歩き出した。














手には淡いピンクの薔薇を大切に持って……。










「……本当に、ご迷惑をおかけする……。」







あたしと別れた後、おじいさんが呟くように言った一言は……知らなかった。











「…おじいさんの目、綺麗な紫色だったな……。」










甘く香る薔薇の香りに包まれて、……あたしはポツリと呟いた。