…そんなわけで、あたしは他の花嫁さんとは違って自由に庭を散策する。
花嫁が出歩くのがやっぱり珍しいのか、チラチラと視線を感じるものの…十夜が話しておいてくれたのかそれでも皆親切に笑顔で声をかけてくれる。
おかげであたしは、真神の家で随分と馴染んできていた。
「わぁ……!」
歩きながらあまりにも綺麗な花壇が目に留まって、思わず歓声を漏らした。
そんなあたしに…
「これは姫君、お散歩ですか?」
「……!こんにちは。綺麗な花壇ですね。お花のお手入れですか?」
その美しい花壇の前で土を弄るおじいさんに声をかけられて、あたしもペコリとお辞儀をしながら笑顔を返した。
「土いじりが好きなものですからね。
趣味でしているんですよ。」
おじいさんは優しい顔で花を見てあたしに向かってにっこりと笑う。
顔にはしわが刻まれているけれど、若い頃はきっと美形に違いない…品のいいロマンスグレーの髪が綺麗なおじいさん。
…この人も人狼なんだよねぇ…。
麗しい血筋に思わず感心してしまう。
「お気に召しましたらいくらか切りましょうか?」
ぼんやりしているとそんな声がかかって、あたしは慌てて首を振る。
「いいえ…!このままで。
…ここに咲いているのが綺麗ですから。」
生き生きと咲く綺麗な花を摘んでしまうのがもったいなくて、おじいさんに丁寧に断って、また花を見つめた。