「………!」
そしてあたしは立ち上がりかける十夜の服の裾をぎゅっと握りしめて離さない。
「…いえ、たいしたことではありませんので。
姫君、失礼いたしました。」
「………。」
それに気づいた優秀な側近は、サッと頭を下げると微塵も隙のない綺麗な所作で部屋を後にした。
「……ごめんなさい……。」
まっすぐに伸びた長身の背中を見送って…再び二人きりになった部屋で、十夜の服の裾を握りしめたまま俯いて謝った。
「……気にすんな。俺の珍しい幸せを壊さねぇ優秀な側近を褒めてやらねぇとな……?」
「……十夜……。」
あたしの強張る手を優しく包んでほぐしてくれながら、十夜は優しく微笑んだ。
「……おいで。」
「………っ!」
笑顔で促されて、迷うことなく抱きついた。
首に腕をまわして、鎖骨辺りに顔を埋める。
優しく頭を撫でられて
…なんて幸せなんだろう…と思った。