いいだけ笑ってやっと狼のべろべろ攻撃から解放され…落ち着いたあたしは意を決して、そろそろと狼の鼻先に手を伸ばしてみた。
ごくっと唾を飲み込んで、指先は緊張に震えていた。
その指先を
「……!」
…狼はまたペロリと舐めた。
大丈夫だ……。
でっかくて怖い見た目の割に、黒い狼は驚くほど大人しかった。
恐る恐る頭を撫でても怒ることなく静かにしていて、むしろ気持ちいいのか真っ黒な宝石みたいな瞳を細めた。
「おまえが助けてくれなかったら、酷い目にあってた…」
安心したあたしは狼の太い首に腕をまわして、思いのほかふんわりとさわり心地の良い毛皮に顔を埋めた。
狼はそれでも大人しくされるがままになってゆったりと前足を組み横たわっている。
相手は狼なのに、その様は気品すら漂って見えた。
怖い思いもたっぷりして、肌寒い5月の公園で狼の温かな毛皮は離れがたいほどに心と身体に心地よかった。