「他人の花嫁に興味を示す狼など、前代未聞です。
聞いたことも無ければ、我らの一族においてあり得ません。」
橙伽さんの声は固くて……これが驚愕の事態なのだということをひしひしと感じた。
十夜は難しい顔をしたまま黒く輝く瞳で、ただ一点を見つめていた。
――――そして
「全ての群れの頭を呼べ。」
「直ちに。」
低く重々しい声に…橙伽さんは素早く膝まずき、あっという間に出て行った。
そして胸の奥底まで響き渡るような……狼の遠吠えが聞こえてきた。
あたしはぼんやりと、あれは橙伽さんの声なのかな……と考えていた。
『……ウォォーーー…ン……』
低くく
伸びやかに
気高く
切なく…
狼がないている……。