「……本当に一人で帰るのか……?」
この日の放課後。
あたしの前には眉を寄せて心配そうな十夜の顔。
「もう…。家までの距離だよ?たいしたことないってば!」
あたしは呆れて顔を十夜にしてみせる。
十夜がこんなに難しい顔をしている理由……それは………
今日、十夜には家の用事でどうしても外せない約束があってあたしと一緒に帰れなくて……。
今日に限って、萌花はなんと…!灰斗とデートなんだとか!!
そんな訳であたしは一人で家に帰ることになったんだけど………。
そのなんでもない事が十夜は心配でならないらしく…………。
「やっぱり橙伽に迎えに来てもらう……!」
「…………。」
終始こんな調子なんだよ………。
「~~~!過保護…っ!!そんなことで橙伽さん呼んじゃダメ!」
あたしが怒ると、十夜はムッと唇をつきだしている。
「……しょうがねぇだろ?おまえに何かあったらと思うと…気が気じゃねぇんだよ……」
あたしの顎に手をかけて……強い黒く輝く瞳であたしを捕らえる。
「………十夜……っ」
唇が後少しで触れそうになった……その時…………、
―――ブーブーブー………。
「…………。十夜…ケータイ……」
「…………っ!邪魔しやがって……!!」
十夜はケータイのバイブを止めながら、チッ!と舌打ちすると不機嫌にケータイをかけ出した。
あたしはバクバクいってる心臓を宥めて、……ちょっと残念かも…なんて思いつつ…帰る準備を始めた。