先生がトロンボーンの部屋に来た。
「朝海、預かるよ」
「すぐ返してくださいね!」
「はいはい」
廊下で先生は小さく言った。
「朝海、楽器全部吹けるの?」
「一応、吹けました」
「すごい人気だよ」
ちょっと嬉しい。
「どこのパートが気に入ったの?」
あたしは……やっぱり
「トロンボーンです」
「そっか! じゃあ。続けて吹いて来て。先輩にあと15分後に音Aに集まれって伝えといておいて」
「わかりました」
どこのパートからも人気だって。
嬉しすぎちゃうよ。
「戻りました!」
「おかえり! 何を話していたの?」
本当明るいパート。
「どこのパートがいいか、です」
「朝海ちゃんはどこがいいって言ったの?」
「トロンボーンです!」
「まぢ!? 嬉しいなあ」
伝えないと。
「先輩。先生があと15分後に音Aに集まってほしいと」
「え! まぢか! じゃあ急いで体験させないと」
トロンボーンも体験を終えて。
急いで先輩達が走っていく時にシルバー先輩があたしの手を握った。
トロンボーンの部屋にはシルバー先輩とあたし。
無言で握る先輩に、「あの……」と言うと「行くか」と言われそのまま音Aに向かった。
「なんで手を……」
「辺に盗られちゃう」
「辺……?」
「居たでしょ? 美白の茶髪。王子みたいな奴」
「あ。渡辺先輩ですね!ホルンの!」
「うん。あいつね。可愛い子狙うから」
一瞬、可愛い、って言うとき帆を赤らめた先輩が可愛かった。
シルバー先輩も可愛いですよ、と言おうと思ったら先輩が
「ちなみに、俺はシルバーじゃなくて相田ね」
「相田先輩って呼びます」
「それでいい」
そろそろ、着くころに相田先輩が止まり
「俺から離れるな」
と言って大きい手をあたしの手の上に乗せて握っていた手を離し歩き出した。