「…それが一条さん、…?」
「いいえ、また別の人。俳優だったんだけど…」
みちるは遠慮がちに言った
「…お父さんより好きになってしまったの?」
「…まさか、最初はただ仲良くしてただけ。話も合ってね…。わたしも大分女優として慣れてきた頃だったから…なんていうのかしら、ちょっと浮つき出してしまったの」
名前も覚えてない俳優、
なんと言ったか
イニシャルは確かTから始まる名前だった
そのぐらいのお遊び程度の関係だった
そんな時
彼…Tの紹介の紹介、
まったくの他人から紹介で会ったのが彼
一条健だった。
彼はまだその時は 新人脚本家としてデビューしたてで
私より3才ばかり若かった…
なにか飲み会だった気がする
「はじめまして、美麗さん。」
「はじめまして…一条さん」
彼は口は笑っていたけど、目は笑っていなかった
「僕、ずっとお会いしたいと思っていたんです」
彼は丁寧に言いながらお酒を飲んだ
「…ありがとうございます。」
「お世辞じゃありませんよ。…僕は苦手なんです、そういう思ってもない言葉を言うのは」