数分後。


久留生海斗は「蓋、渡して来たよ」とヘルメットを脱ぎながら、にこやかに笑って帰って来た。


「この度は有り難うございました。このご恩は一生忘れません」


海斗に深々と頭を下げる。


「あの……さ、タメなんだし。その、敬語はやめませんか?」


おずおずと提案している久留生海斗もつられて敬語だ。


「そう言う訳には行きません」

「さっきは違ったみたいだけど」

「あ、あれは、非常事態ですから特別です!」


久留生海斗は腕を組むと「この強情女」と言わんばかりに深~く溜息を吐く。


「分かった。困った時は、お互い様。で、さっき『このご恩は一生忘れない』って言ってたけど……。それ、本当?」



げっ?!

そこ、しっかり聞いてたの?


でも、言っちゃったからには、引っ込みがつかない。



「……はい。久留生さんも何かお困りの節は何なりとお申し付け下さい」


久留生海斗はしばらく考え込んだようだった。

けど、にっこりと微笑んで私の前に一歩進み出る。


「じゃ、早速だけど、明日、舞香ちゃんの時間を貰えないかな?」

「えっ?!」

「友達とパーティーする予定なんだけど、恋人を連れて行くって言っちゃたんだ。舞香ちゃんにその役をやって貰えないかな」

「無理っ!無理です、そんなの!私と久留生さんとじゃ釣り合いません!!」

だって、あなたのこと死ぬほど嫌いなんだもの!!(←こっちが心の正直な声)


「さっき『このご恩は一生忘れない』って言った……」


久留生海斗が上目遣いでポツリと呟く。


「よ、喜んでお供させて頂きます!」


くっ……!

その手で来るなんて、やっぱ、この男、ずりぃ……。


「じゃ、明日。11時に朝日が丘の駅で!当日はプレゼント交換があるけど、俺の方で適当に用意しておくから、舞香ちゃんは手ぶらで来て」

「……承りました」


あ~あ……。

約束しちゃった。

何やってんのよ、私。


でも明日一日の辛抱だ。

そう、たった一日の……。


この時の私はこの約束をチョー後悔することになるなんて、夢にも思っていなかったんだ。