「……あの、」



お互いに黙ったまま、立ち尽くすこと数分。


気まずい空気が苦しくなってきたのか、彼女が口を開いた。


……そんなとき。



――ブーッ。



絶妙なタイミングで鳴り響いた携帯電話。


もちろん、俺のではなくて……



「あっ、ちょっとごめんなさい。」



慌てて謝って、彼女は俺に背を向けた。


そして携帯を開く音。



「もしもし?」



さりげなく、俺から距離を取りながらも会話を続ける彼女。



「ごめんね。まだ学校なの。……うん、今から帰る。」



背を向けているせいで、表情は見えないけど……


微かに聞こえてくる声は、明らかに今までとはトーンが違う。



「大丈夫だってば。
すぐ行くから、家で待ってて?」



親しさの中に、甘さの混じった柔らかい声色。


相手が“特別”であることは容易に想像できる。


女の子がこんなふうに話す相手なんて1人しかいないから。




でもまさか、


彼女がこんな……?