「あなたたちはこの先、たくさんの人と出会って、いくつも恋をする。」



机に向き直りながら、ひとりごとのように呟くおばちゃん。



「それがどんなに素敵な恋だとしても、その中のひとつにすぎないかもしれないのよ。」



それって…

なんだか妙に、実感がこもったおばちゃんの言葉。

もしかして、おばちゃんも昔…



「でも、大丈夫。
後から振り返ってみれば、全部がいい“思い出”になるわ。」



にっこりと。

まるで、“女子高生”みたいな笑顔で笑った。



思い出、か…

確かに、そうかもしれない。



でも…



「俺は“思い出”はいらないや。」


「え…?」


「思い出を持って、次に…なんて無理。って言うか…」



“次”は、たぶんない。


おばちゃんは、“いくつも”の恋をしたかもしれないけど、

俺はたぶん、できないと思うから――



「何?随分消極的じゃない。大丈夫よ。水沢くんならきっと…」


「俺は“1回”でいいんです。」



そう。他にはいらない。



「彼女としか、恋はしたくないから……」