「……あ。」
“夏期講習”最終日。
夏休み最後の模試を終えて、帰宅。
マンションに着いて。
見覚えのある後ろ姿を見つけて、俺は足を早めた。
エントランスに入って、
「みさ…」
声をかけようとした瞬間。
「…え?な…んで…」
目に飛び込んで来た光景。
それは、俺がこの世で一番見たくない光景だった。
「……っ!」
立ち尽くしたまま。
金縛りにあったみたいに動けない。
放心状態のまま、しばらく見つめていると…
「…航くん?」
ふいに振り返った彼女が俺の姿を捉えた。
そして…
「おかえりなさい。早かったんだね?」
いつものように。
柔らかい笑みを浮かべて駆け寄ってきて。
「おつかれさま。模試…どうだった?」
ごく自然に。
俺の隣に寄り添うように並んだ。
「…航くん?」
みさきの声は、正直耳に入ってこなかった。
俺の視線は、後ろにいた…
「…ああ。途中で偶然会ったの。」