……そう。


夕方から出勤だった母さんと入れ違いに。

アイツは家に帰ってきた。


つまり、

俺はまだ、みさきと何もしていないわけで…



「ご飯食べたら、今日は帰るね?」


「えっ?」


「だって…」



再び、みさきの視線が動く。

そこには、もちろん……



「いいじゃん。泊まっていきなよ。」



みさきの両手をきゅっと握りしめて。

ねだるように、その瞳を下から覗き込む。



「無理だよ。」


「なんで?」


「だって…」



みさきが嫌がる理由はわかってる。

俺だって本当は、
大事な彼女をアイツに晒すような真似はしたくない。


でも…



「……我慢できる自信、ないもん。」



おそらく、さっきの言葉の続きだろう。

小さく聞こえたみさきの声。



「私も、今日はちょっと、いつもと違うから。」


「へっ?」


「触れたくて仕方ないの。ずっと我慢してたから。」


「みさき…?」



それって、まさか…



「一度触れ合ったら、
たぶんきっと、先輩とかおばさんのことなんて考えられなくなっちゃうよ」