ひょっこりと、後ろのドアから顔を出したのは、
紛れもなく、俺を呼び付けた張本人。
「ほら、2人とも。
そんなところに突っ立ってないで中に入りなさい?」
この場にふさわしくない、ノー天気な声で俺たちを促した。
「あー、櫂。それはお母さんが換えてくるから、あなたは航と中にいなさい。」
アイツの手から花が生けられた花瓶を奪って、代わりにその背中を病室へと押し遣る。
そして、
「ほら、航も…」
今度は俺に伸ばされる手。
「……どういうこと?」
それを思いっきり振り払って。
俺は母さんを睨み付けた。
「俺を騙したの?」
「やあねぇ、騙しただなんて人聞きが悪い。私はただ…」
病室に掲げられた名前。
俺はその人をよく知っている。
俺が、
この世で一番
憎らしくて。
一生かかっても
許せない相手、だ――