「じゃあ、後でね。」
困惑する俺をよそに、電話を切った彼女はすぐにこちらに戻ってきた。
「お話の途中でごめんなさい。」
そして、ひどく申し訳なさそうに謝った。
でも、心なしか表情が明るくなったような気がする。
瞳の輝きも、淡く色づいた頬も、自然と上がった口角も……
「いや……」
そんな彼女をなんとなく直視できなくて、俺の目線はだんだん下へと移っていく。
……あ。
そのとき初めて気がついた。
携帯を握り締める彼女の左手。
薬指に光る指輪。
「あの、先輩。」
彼女の声にハッとして顔を上げると
「私、もう行かないといけなくて。」
困ったように俺を見つめる綺麗な瞳。
そこに映っているのは、紛れもなく俺だけど、
彼女が見ているのは、俺じゃない。
「会えてよかったです。
それじゃ…失礼します。」
ペコッと頭を下げると、彼女はそのまま行ってしまった。
黙り込む俺を気にすることもなく、ひどく急いで。
向かう先は……