もう、桜もだいぶ散り
部活に励んだ春休みに別れを告げた今日ーー

「葵、喜べ!同じクラスだ。」


教室に入って来るなり、部活仲間の光が声をあげた。

「うるっせぇ。お前がいる思うとこの一年間が心配だわ。」


耳をおさえ、顔を思いっきりしかめて言い放つと、
光は両手で両端を持った机をガタガタといろんな所にぶつけながら近づいて来た。

「そんな冷てぇこと言うなよ〜。」

わざとらしく口をとがらせ、
やっと窓際にいた俺のうしろに机とイスを置いて腰を下ろす。

「耳元で言うなよ。きもちわりぃ。」


光とは小学生の時から一緒にバスケをしていていわゆる親友と言う仲だが、馬鹿でちゃらけた性格に時々ついていけねぇ時もある。


「まーまー。ただの愛のスキンシップだろ〜。

「…。」
「無視かよ。…そうだ、愛といえばお前、佐藤とクラス離れちまったな。」

髪をいじりつつ俺が今ちょっと傷ついているをさらっと言い放つ。

「うるせー。」


佐藤とは、一年の2月から付き合ってる俺の彼女で、本名は
佐藤 愛。

一年では隣のクラスで、10月にあった2クラス合同の劇の発表会の時に一目惚れした。

しかし愛には当時彼氏がいたため、想いは伝えられなかったが、

12月に突然メールがきた。

友達として仲良くしたいというものだったが、俺は嬉しかった。

何しろ、それまでバスケにしか打ち込んでこなかった俺にとっての大事な初恋だったから。

「しかも、俺ら6組で佐藤は2組だろ?前より離れてんじゃねーか。」

さも、楽しそうに言ってのける光にイライラする。

「俺らの絆はこんな事じゃ壊れねー。お前もう黙れよ。」


話を終わらせるため、前を向くとちょうど新しい担任が入ってきた。

光と話してる間に教室の移動は終了したようだ。


「皆さん、先程の始業式でも紹介がありましたが、私は6組の担任の藤森 美咲です。この学校にはまだ来たばかりなので分からないこともたくさんありますが、精一杯頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。」


綺麗な若い女の先生で、好感が持てる優しい微笑みを浮かべている。

「それでは今日はこれで終わります。部活のある人は頑張って下さい。」

「っしゃー!葵、部活いくぞ!今日こそはお前より多くシュート入れてやる。」

先生の話が終わるないなや勢いよく立ち上がる光。

「悪い、今日は愛と昼飯食うから、後で合流な。」
「はぁ!?いつから学校でいちゃこくようになったんだよ。お前そんな奴じゃなかっただろ?」
心底ビックリしたといわんばかりに光が目を見開く。

まぁ、確かに今までは彼女より友達を優先してたし。

でも、それじゃあいつが離れてく気がして。

それは嫌だ。好きなんだ。

「悪いな!」

なんだか照れくさくて、驚きで光が何も言えないうちに教室をでた。




待ち合わせは一つ上の階の6組の教室。

走って階段を上がったせいであがった息を少し整えてから、教室に入ると、可愛い愛と、愛の友達の藤波が窓の外を見て、笑いあっている。


「なに見てんの?」

声をかけると振り返った藤波がまず口を開く。

「おう!遅いよ。高橋〜。」
「すまん。光に掴まってさ。」

普段はおもしろい奴だが、
藤波を怒らせると後が怖い。

「もぉー!愛が可哀想じゃん!」
「奈穂、落ち着いて。」

愛が藤波をなだめる。久しぶりの愛はやっぱり可愛くて声を聞くだけでキュンとする。

「高橋くん汗かいてるよ。走ってきてくれたんだ?」

「おう。待たせてわりぃ。」

首を傾げて俺を見上げる愛に謝ると最高の笑顔が返ってくる。
「いいよ。高橋くんも部活でしょ?早く食べよ。」

「じゃあ、邪魔者は消えるか。ふたりの時間を楽しんで。」

帰宅部の藤波はニヤリと笑って帰って行った。
「そういえばさっき藤波と何してたんだ?」

机を挟んだ向かい側に座り飯を食べる彼女に問うと一瞬きょとんとした後、あぁ!と笑顔になる。

「野球部でもう練習始めてる人がいてさ、奈穂と誰が格好いいかって話してたの。」

「…ふーん。」

「奈穂が慎治君は部活してたら格好いいのにとか言うから笑い止まんなくてさー。」

「愛は?」

「ん?あたし?そりゃ狩野先輩だよ!学校一の美男子だし。」
その言葉に少しむかっとする。

彼氏差し置いて名前で呼ばれてる慎治と格好いいと言われる狩野先輩。何者だよ。

まぁ、男友達の多い愛に嫉妬させられることはよくあること。
あまり束縛するのもよくないよな…。

少し落ちた気持ちを切りかえ、たわいない話をしてその幸せな時間を終えた。

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