*   *   *

千夏の携帯で電話した遥。
「……」
両親の必死な声が今でも耳に残っている。
大きなため息をついて、遥は隣で眠っている千夏を見た。
こんな状況でも幸せそうに寝ている千夏。

あの人は…千夏のことが本当に大切なんだな…。
わかる気がした。底抜けに明るくて、その笑顔はまわりに元気を与えてくれる。能天気で少し鈍いが、実はまじめで、真剣に人を見ようとする。遥のことも、一発で見抜いた。

「変な奴…」
そっと頭を撫でると、千夏が微笑んだような気がした。


──今思えばあの頃からもう、家族の歯車は、ずれ始めていたのかもしれない。

遥の父親は、彼が小学6年生の時に亡くなった。
海で遊んでいた時に溺れかけた遥を助けたためだった。
「父さんっ…何で俺の事なんか…!」
遥は無事だったが、それと引き換えに父は命を落とした。

「あんたのせいで父さんは死んだのよ!!」
母が泣きながら遥に言った言葉はこれだった。
自分を助けたから父は死んだ。
自分が調子に乗って沖まで泳いだりしたから…。
はじめからわかってた、俺のせいだってことぐらい。でも気付かないフリをした。認めるのが怖くて…。
俺が父さんを殺した──…。
母の言葉で改めて向き合わされた事実。

母はそれから、一度も遥と目を合わそうとはしなかった。
親に見放された遥の唯一の支えは、5歳下の妹、光(ひかる)だけだった。