*   *   *

「ただいま」
「遥さん!おかえりなさ〜い!」
倉庫に戻ってきた遥を千夏が笑顔で迎える。
ホッとした。千夏の笑顔に…そしてちゃんとここで待っていてくれたことに…。

信じてよかったと思う。逃げるチャンスなんていくらでもあったはずなのに、それでも約束を守ってここにいてくれた。

「ほら、朝飯」
コンビニの袋を渡す。中を覗いたあと、千夏はあのあどけない笑顔で喜んだ。
「こんなに食べていいんですか!?」
「バカ、明日の分も入ってるんだよ。全部食うなよ」
「明日…?」
“明日”という言葉に、千夏は反応した。
「千夏?」
「明日も…まだ…」
つぶやく千夏。彼女から笑顔が消える。

遥はそれを見るなり、言葉を失った。
そうだ、いくら自分が千夏と一緒にいたいと思っても、彼女からすると遥は自分を拉致したただの犯人。そんな相手と一秒でも長く、ましてや1日中一緒にいたいわけがない。

「ごめん…」
「え?」
千夏が顔を上げると、そこにあったのは遥のつらそうな笑顔。
「そうだよな、明日も犯罪者と一緒にいたくなんかないよな」
「えっ…」
「冗談だよ、全部今日の分。今日の夜あたりには、お前の両親も金は用意できてるだろ」
俯く千夏の頭を撫でる。
「今までよく頑張ったな。今日でさよならだ、もう少し我慢してくれ」

頭の上に乗せられた手を、千夏は強く握り締めた。
「やだ…」
「千夏…?」
顔を上げた千夏は大粒の涙を流していた。