遥はトイレから戻ると、鎖をはずした。
「お前もトイレ行くだろ?」
「えと…行かないです」
「そっか」
再び鎖をつけようとしたが、遥は手を止めた。
“逃げない”
逃げる気のない人間を縛り付けている必要なんてない。でも、もしこれで逃げたら…?

「……」
遥は立ち上がる。
「あれ?鎖つけないんですか…?」
不思議そうに聞く千夏。
「ずっと縛られてんのも嫌だろ」
「まぁ、そうですけど…。いいんですか?」
遥は千夏の目を見る。
「逃げないって言ったじゃねーか」
そう言って笑うと、千夏は嬉しそうに微笑んだ。
「はい!!」

俺はこいつを信じてみる。
もう誰かを疑いながら生きたくないんだ。
千夏だけは…信じても大丈夫。

ぐぅぅ〜〜…
昨日の夜と同様、千夏の腹が盛大な音を奏でた。
「あ、あはは…」
「腹減ってんだな…」
苦笑する千夏と遥。
だが、遥が所持していた唯一の食べ物は、昨日千夏が全部食べてしまっている。

「大丈夫です!!私、頑張って我慢します!!」
頬を赤く染めながら慌てて宣言する千夏。だが、昨日の彼女を見ていれば我慢などできない事ぐらいわかる。
「コンビニで何か買ってくるよ」
大方、警察はまだ犯人の目星はついていないはず。少しなら外に出ても大丈夫だろう。

ゆっくりと立ち上がると、千夏に呼び止められた。
「遥さん」
「あ?」
「ここで待ってますね」
歯を出して笑う千夏。遥も笑顔で頷いた。
「ああ」