「彩紗ちゃん、大丈夫!!!鬼さんは悪い人じゃないよ!!ただ…“ヅ”の言葉には気を付けた方がいい。」


「ヅ…?」


私は、頭の中がグルグルしていた・・・

鬼下刑事は悪い人じゃない?

“ヅ”の言葉に注意…?

鬼さん…?


「鬼さんは、あのお年なんだけど…頭が薄くてね…カツラなんだ。だから、ヅの言葉に敏感なんだよ。」


木枝さんは気の毒そうに話す。


「そ…そうだったんですか?でも、カツラには見えませんでしたけど…?」



「ナチュラリィな感じだったでしょ?鬼さんは、美容師さんも驚くほどのヘアアレンジの天才なんだよ。」

木枝さんの言葉遣いに思わず笑ってしまった・・・


「鬼さんは悪い人じゃないよ…。でも、鬼さんがあんな事言うなんて…彩紗ちゃん…既に、何かの事件に巻き込まれてたり…。たぶん大丈夫だと思うけど、気を付けた方がいいです。」



『小さな溝に嵌まったら最後。その小さな溝は…次第に深くなり…最後には…出られなくなる…。残念な事に…あなたはもう…その小さな溝に嵌まっているんですよ…』

この言葉の意味を私は、
最後に…痛いほどに…
思い知らされる事になろうとは―――
今は知る由もなかった…