――それはいつの間にか出来ていた、切り傷のようだった。


デビューから二年目。それまで溢れ出すように、それこそ捨てる程に湧き出たアイディアに、

ある日ふと、飢えを感じたのだ。


飢えというより、”違和感”だろうか。


アイディアそのものはあったのだけど、それに対する物足りなさ、そして何より世間との齟齬を感じたのである。


それまでただひたすら走り抜けて来たから、環境が少しずつ変化していた事に気付いていなかったのだ。


具体的に言えば、読者の嗜好の変化や活字離れに機敏に順応できていなかった、という所だろうか。


けれど私は自分の不調を見て見ぬふりをし、認めなかった。


ちょうど連載の話を持ち掛けられた時期の話だ。



本来、ベテラン作家の大型連載が始まるはずだったのが、進行に大幅な遅れが生じた事により枠が空いて、

その埋め合わせ候補として私の名が挙がっていた、あの時。


良質な機会に恵まれたにも関わらず、企画の進行が停滞し。

それを見兼ねた山崎が盗作をさせ。


そんな風に少しずつ、何かが狂っていったのだ。


そこでようやく、歯車が軋んでいた事を思い知る。


けれど、一度大きく歪んだそれを修復できるわけもなく、あっという間に崩壊の道を辿ったのだった。



作品が、書けなくなった。