「なんで?」

あたしの切実な訴えに、きょとん顔でそう聞いてくる。

いや、分かるだろ。
人がかつてないくらい素直に自分の気持ちを吐露しているというのに、一体なんなんだ。
この後に及んで、いかに自分の平凡かってことを羅列して説明しろっていうの?
なんのプレイだ、お前はドSか。


「なんなの、人がせっかく…」

「いやいや、なんで喧嘩売ったみたいなってんだよ!そうじゃなくて、本当に分かんないんだよ、ちーがそんなに自分を卑下する意味が」

だって、俺からすればちーはだれより可愛いし、魅力的だし、他の女なんて比べものにならないくらいのいい女だよ。


分かんないのは絶対にあたしの方だ。
礼の目は耳は、節穴なのだろうか?
いや、むしろ粘土細工か?

今までのあたしのどこを見て、なにを聞いたら“可愛い”に繋がるのか。
『恋人』だということを考慮して、多少贔屓目に見たとしても、だ。
“誰よりも”はさすがに語弊がありすぎる。
大分(てか、かなり)意味合いが変わってくるじゃないか。


「そりゃあ、俺だって。素直で分かりやすくて、聞き分けのいいグラマーな美女のほうが断然タイプに決まってるけど」

やっぱり、そうなんじゃん。

だったら。
尚更…どうして。


「大体さ。基本的に俺は超自分本位だし、女に尽くしたりだとかありえないんだよ。蘭も含めて、昔の女にも絶対そうだった」

いちいち過剰に反応する心。
たとえ、“逃げ”だと言われようと。
昔の女のハナシなんて、可能な限り、聞きたくない。

傷つくのが嫌だから、怖いから。
19年の人生、苦しいこととか望まないことは、“回避”してきた。

――でも、今だけはだめだ。
ちゃんと真っ正面から受け止める、って決めたんだもん。


もう一度、改めて視線を合わされて。
礼のその強い意志が表れているような目に、思わず狼狽える。

そして、続けた。

(以下、彼の主張)


ちっとも言うこと聞かねぇし。
可愛くない言葉ばっかぽんぽん飛び出すし。
素直さのかけらもないし。
つまんねぇことですぐ意地張るし。
強がってばっかなのに、そのくせ泣き虫で。
正直、自分でもなんで惚れたのか不思議でしょうがないんだけど。

でも。

俺が、過保護になるのも。
ついつい甘やかしてしまうのも。
わがまま聞いてやりたいと思うのも。

全部、千咲だけ。
こんなの、全部、はじめてだ。