「他には?聞きたいことも言いたいことも、全部俺に直接言えばいいじゃん」

“なんで大地に言うんだよ”

そう言った礼は拗ねているようにも見えて、自惚れかもしれないけど妬いてくれたのかもしれなかった。
礼がヤキモチやくなんて。
おもしろくって、少し嬉しくて、思わず笑ってしまった。

「こら、なに笑ってんだ。はやく言え」

聞きたいこと、言いたいこと…


「蘭さんのこと、聞きたい」

せっかく和やかな空気になったのに、また空気が張り詰めるかと思うと怖くて仕方ないけれど。
これを乗り越えなくちゃ、いつまで経ってもあたしはきっと変われない。


「…俺がぶっ倒れる前日かな。蘭と二人で、あってたんだ」

その内容はあたしの想像通りのもの。
でも今この場ではっきりと言ったくれたことで心に染み付いていた黒い影が少し晴れる。

「ごめん、言わなくて。ちーがまた不安がると思ったからなんだけど、そのせいで余計にそうさせたよな」

ごめん、ともう一度謝ってから彼はすべてを告白してくれた。


蘭さんと会ったのは、はっきりと付き合っている人がいるってことと、それがあたしであるってことを直接彼女に伝えたかったかららしい。
今日みたいに一緒に旅行に行ったり、これから飲むような機会がまたあるのだとすれば、それは伝えておかなければいけないと思った、と。

でも、蘭さんと会うのは高校の時に別れた以来で、だから動揺してしまったのは事実。
彼女だけは他の元カノとは違う。
それはあたしが聞いていた事実と同じだった。

「確かに蘭は特別だけど、それは過去の話。今、俺にとってちー以上に大事な存在なんていない」





「話してくれて、ありがと」

嘘のない笑顔でそう言うと、彼は安心したように笑った。

ここまで礼が正直に話してくれたんだ。
あたしだって言わなければいけない。


「あたしね、自分に自信ないの。こんな平凡なあたしをなんで礼がすきになってくれたのかわかんなくって、だからいつか礼が離れてっちゃう気がして、それが怖かったの」

まるで王子様と町娘だ。
王子様はいつだって、綺麗なお姫様とのハッピーエンドが約束されていて、誰もがそれを望んでいる。