「いや。早和ちゃんの事がそんなに好きなんだなーって」

「おい…」


渉をちょっと睨みつける。


「ああはいはい。怖いから止めろって。明は、昔から早和ちゃん泣かしたやつには容赦無かっただろ? 俺何度かわいそーにと思ったことか」


うそつけ。

笑っている渉を疑いの目で見る。

それでも笑顔を崩さない渉を見て、ふーっとため息をついた。


「…早和は、あれで普段は滅多に泣かないだろ?」


早和は他人の前では滅多に泣かない。

もちろん、学校で泣いたのなんて小中高合わせても数えるほどしかないだろう。

早和は昔からどんなにつらい事や悲しい事、怖い事があっても人前では必死に我慢して涙を見せない子だった。

初めは、俺らの前でさえも気を張っていたはずだ。

それがいつからか、俺らの前でだけ、もっと重大な事なら俺の前でだけしか泣かなくなった。

…それが少し嬉しいと思っているのは内緒なんだが。

だから…


「あれだけ我慢強い早和がずっとずっと堪えて、それでも我慢しきれずに泣いてしまうような事があったなら、俺はそうさせたやつを許さないでいようと思ったんだよ」


少しでも多く、早和に笑っていて欲しいから。


「…お前さ、気づいてないかもしれないけど、すっげー優しい顔してんぞ。やっぱ早和ちゃんの力って偉大だな」

「………それ、今朝親父にも言われたよ…」