「失礼いたします」


丁寧な仕草で扉を開け、私達を促したメイドさんは、にこりと微笑むと一礼して扉を閉めた。

…たぶん、私達家族を邪魔しないようにと思ってすぐに出て行ってしまったんだと思う。


「ただいま参りました、お祖父様」


お兄ちゃんがそう言って広い書斎の中央に座っているおじいちゃんに頭を下げた。

私も、慌ててそれに倣う。


「よく来たなぁ…司、早和」


パタン、と本を閉じる音と同時に、穏やかな声が私達を呼んだ。






















「──それで、結希ちゃんったら強引なんですよっ!『明とせっかく夏祭りに行くんだから、可愛いのじゃないとダメ!』なんて言って。結局黒の浴衣買っちゃったんですけどね」


えへ、と照れ笑いをすると、うんうんと優しく頷いてくれるおじいちゃん。


「早和の浴衣姿なら、さぞ可愛かったんだろうなぁ。今度おじいちゃんにも見せてくれんか?」

「私なんかの浴衣姿で良ければ、いつだって見せますよ!今度は浴衣を持ってきますね」


私がそう言って笑うと、おじいちゃんは嬉しそうに笑って優しく頭をなでてくれた。

なんだかくすぐったくて、小さく首をすくめる。

こうしておじいちゃんと話せているなんて、不思議。

今まで会ったことも話したこともなかったのに、安心できる。

家族なんだ、って思う。

それは少しくすぐったくて…、幸せな気持ち。

おじいちゃんと私が笑いあっていると、なにやら隣からおも~い空気が…。