「…お兄ちゃん?」
「ん~?」
滑るように走る1台のベンツの車内で、私は隣で運転している司お兄ちゃんに尋ねた。
「…ここ、どこ?」
「お祖父様の家」
へらりと、いつものようにつかめない笑顔を見せて軽く答えたお兄ちゃん。
…空耳だよね?
うん。
絶対に空耳だよ。
だって、今お兄ちゃんの車で走っている場所はどう見たって森のなかだもん。
整備された道は今走っている道だけで、その両脇にはどこまで続いているのかわからないほど、たくさんの樹が生えている。
気持ちよく晴れた空からは太陽の光が降り注ぎ、木々の間を優しく照らす。
外からは割れんばかりのセミの大合唱が聞こえていて…。
うん。いい所。
「………ここは、どこですか」
「だから、お祖父様の家だって」
…いやいや、ありえないって。
もしかして私の耳、突然悪くなっちゃったのかな?
耳鼻科の病院に行かないと。
それにしても、お兄ちゃんがベンツなんて持ってたなんて初めて知ったなー。
さすが御曹司。
すごいねぇ…。
「…早和、本当だぞ?」
「………。」
はい、ごめんなさい。
お兄ちゃんには、妹の現実逃避なんてしっかりお見通しでした。
いや、でも…思わず現実逃避したくなった私の気持ちもわかるでしょ?
だって、この一本道を走り始めてもう軽く30分は経ってる。
しかも、前方にはまだまだ緑が広がるばかりで。
…敷地面積どれだけあるのよ…。
地図でおじいちゃんの家を確認してみたい気もするけど…。
「…やっぱりやめとこ」
「なにが?」
たぶん、想像もできないくらい広いに違いない。
確認したら、逆に圧倒されてしまいそう。