「あきら…っ」


ほっとして、パニックが少しおさまる。

だけど、やっぱり足は動いてくれない…。

明のそばに行きたいのに、体のどこも動かすことができない。

足はもちろん、腕や指さえも…。


「どうして…?」

「早和に…手を、出すな…!」


その声にハッとして視線を上げると、大きく肩で息をしながら立ち上がる明の姿があった。


「明!無理しちゃダメだよ…!そんなにケガしてるのに…」


その時、低く、押し殺したような笑い声が聞こえてきた。


「だ、誰…?」


その声は、私のすぐ後ろから聞こえてくる。

振り返って見たいのに、体がいうことを聞かない。


「うわあぁぁぁっ!」

「明っ!?」


いきなり前方から明の悲鳴が聞こえてきた。

明は片膝をついて、さっきよりも大きく息をしている。

服の赤いシミがじわりと広がっていってる。


「ど、どうして…。何があったの?」


あいかわらず、家がパチパチと燃える音と木材の焦げたにおいが漂う。

どうしてこんな所にいるのか。

どうして私は動けないのか。

どうして明はあんなに酷いケガをしているのか―――………。

何もわからなくて、自分には何もできないのが悔しくて…

目の前が徐々ににじみ出す。


「………っ」


ばか。泣いちゃダメ!

ギュッと目を瞑って涙を耐えようとした瞬間。

また背後から、今度は抑えきれないとでもいうような笑い声が聞こえてきた。