渇いた空気を裂く。
変化の無い空間に流れが生まれる。
広い校庭の中、彼の影だけが平面上に浮かんで走る。
時折空を飛ぶ鳥が、その影をゆっくり追い越してゆく。
まるで追いかけっこでもしているように。
鳥は空を羽ばたき、彼は大地を蹴って
風を切り影で競争する。
その光景をなんだかずっと昔から知っているような、不思議でそれでも何だか懐かしい感覚に陥った。
「いつも走っているね」
肩を使って息をする彼に、少しでも優しく話しかける。
彼は荒い息を吐きながら汗を垂らし、それでも顔だけこっちを向いて笑顔を見せた。