「そろそろ帰らなきゃ……」


「……え」



彩人くんの言葉にハッとした。


いつの間にか、辺りは夕暮れ。
時計を見ると、17時ちょっと前。


賑わっていた園内も、だいぶ落ち着いてきた。




「あ……彩人くん」

「ん?」



――ありがとう。
――楽しかったよ。


その言葉が出てこない……。




右手に感じる温もり。

わたしが、人混みからはぐれないように、ずっとつないでくれていた手。


伝えたい――感謝の気持ち。



「どうしたの?」


彩人くんが、歩くのを止めたわたしを振り返る。



「う、うん……あのね」


言いながら、辺りを見回す。




あった!


「あそこ……寄っていい?」


近くにあったショップを指差す。



「おみやげ屋? いいけど……?」

「天人くんに、買って帰ろう?」


「えっ? あいつには、内緒……?」

「秘密にしなくて……いいの」


「え?」

「いいの」


本当に……楽しかったから。


「行こう」


わたしは、彩人くんの手を引っ張って歩き出した。