息を切らして店の前に着くと、店の中に見慣れない男がいた。

深緑色の帽子をかぶり、ぼろきれのような衣服を身に纏って、ヒゲを生やしている。

「待て!何してる!」

急いで店の中にいくと、他にも何人かいたようで、彼らは何かを運び出すと、慌てた様子でその場を足早に去っていった。

どうにも逃げ足が速く、追いつけそうになかった。

僕はあきらめて調理場を確認した。


犯人の目的は何だったのだ。

すると、まさか、である。

砂糖が一袋残らずなくなっているではないか。

ケーキ屋から砂糖が盗まれた。

クリスマスイブの前日に。

街で唯一のケーキ屋のパティシェである僕にとって、これ以上ないほどの大事件だ。

しかし、これ以上に胸を痛める思いもあった。

ティナとアイナと交わした約束が、おそらく守れないであろう、ということである。