勿 忘 草 ー記憶喪失の恋ー【上】



「絆奈お嬢様、自家用ジェット機の準備ができました。」


「ありがとう。」


「絆奈。」


「何、ママ。」


「日本に到着したら、伯母様がいるから大丈夫よ?」


「うん。」


「日本で3年間がんばったらニューヨークに戻って来るのよ?」


「うん。」


「行ってらっしゃい。」


「うん。」




空港の隅っこにある自家用ジェット機用の搭乗口。


ママは勉強で日本に私を送るって言うけれど。


私は知ってるんだ。


本当の理由…

















結婚。




















「絆奈さんいらっしゃい!」


「お久しぶりです、伯母様。」


今は伯父様が会長、パパが副会長となって秋澤グループを維持している。


「9年前はあんなに小さかったのに…元モデルのお母様を受け継いでるのね。何時間も飛行機乗って疲れたでしょう?今日は早く家に戻りましょう?」


「はい。」






私はあまり伯母様は好きじゃない…


化粧は濃くて、香水は臭くて…


「さ、行きましょう。」


外に停めてある二台のロールスロイス。


ホンダかトヨタで充分なのに…


「絆奈さんは後ろの白い方に乗ってね。日本に滞在中は、それがあなたの車だから。」





滞在中…?


違う…


帰って来たんだよ?


帰国中だよ…?


「ぁ、ありがとうございます…」




ロールスロイスは元々送り迎え用に作られた車らしい。


あまり派手な物が嫌いなパパとママと過ごしてきた私が、派手好きな叔父様と伯母様との暮らしに馴染むのは時間がかかるかも…







走り抜ける東京。


9年前もココで過ごしたっけ…


あの男の子元気にしてるかな…


あたしの初恋…


でももうあの男の子の事は忘れないといけないんだ…


もう別の男の人と結婚するんだから…




「絆奈お嬢様、御屋敷にご到着いたしました。」


「ありがとうございます…えっと…」


「絆奈お嬢様が帰国中、送り迎えを担当いたします、加堂です。ドアを開けますので少々お待ちを。」


加堂さんはシートベルトをすぐ外し、外に出て右のドアを開けてくれた。


「うわぁ…」