────…


色鮮やかな魚が青い世界を優雅に泳いでいる。
薄暗い通路を水槽を見ながら歩く。
回りには平日のせいか同じ学校の生徒しか目につかなかった。


どん!


『わ、』

「きゃっ」


ボーッとしながら水槽を眺めながら歩いているとぶつかってしまった。
私と同じ制服を来た彼女は、ぶつかった拍子に持っていた缶ジュースをぶちまけた。

…6本はある。まさか全部1人で飲まないわよね。

とりあえずしゃがんでジュースを拾うのを手伝う。
そんな私の行動に驚いたのか、目を丸くして私を見た。
茶色のボブヘアーがふわりと揺れる。


「………女王様…」

『は?』

「ちょっと沢田!何やってんだよ!」

「グズグズすんなよな」

「本当にあんたってトロいよねー!」

「ごめんね 山本さーん」


あれは確か隣のクラスの…

他人にはさして興味はなかったが、彼女達は派手でよく目立っていたから知っている。


「ご、ごめんなさい!」


缶ジュースを私の手から受け取ると、逃げるように彼女達の方へ戻ってしまった。

絵に描いたようなパシリだわ。


「山本さん」


呼ばれて後ろを向くと、やはり藤臣がいた。
周りの女子がこちらを見ている。


『友達と回ってたんじゃないの?』

「はぐれちゃって」

『まだ始まって1時間も経ってないけど?』

「山本さんは何見てたの?」


…話反らしやがった!


『…鯛、うちの向かいにある魚屋の方がデカいと思って』


たまたま横切った鯛を見て言う。
切り返しとその場しのぎの言い訳は得意な方だ。


「あはは、そうなんだ。…暇ならさ、」


あっちで話さない?


藤臣に聞きたいことは山ほどある。だからこれは決して私自身が藤臣と話したいわけじゃない。
暇潰しだ。暇潰し。

藤臣が指差したベンチを見て、私は頷いた。