それから、あたしは心を
持たなくなった。


どうでも良くなった。


再婚しようとか、面倒は
俺が見てくから、とか…
あたしに言い寄って来る
男は五万といたけど


絶対振り向かない。


振り向きたくもない。


見てしまえば、そこにあ
るのはあたしへの支配と
友姫への苦痛だけ。


通うものなんかありゃし
ないって。


「さあ友姫、用意して。
保育園行くよ。」


服を着替えさせて、ご飯
を食べさせて、歯を磨い
て髪を括る。


「ママ!!ゆきちゃん、お
けちょう、ちていきたい
のよう」


とても二歳とは思えない
発言をする友姫は、他の
子よりもませていて、言
葉もよく喋る。


「駄目だよ、友姫はお化
粧しなくていいの。」


あたしの化粧箱から引っ
張りだしてきた新品のパ
フを弄りながら、友姫は
不服そうにあたしを見上
げる。


「行くよ、鞄持って。」


友姫に靴を履かせて、外
に出る。


ちょうど左が工事みたい
で、作業着の男の人たち
が地面スレスレで働いて
いた。


ふと、目が合った。


歳は三十代前半くらいか
それより少し若い。


焼けた肌は長年の外仕事
を物語ってた。


あたしを、見てた。


会釈して、車に乗り込ん
だ後もう一度その人を見
ると、もうあたしを見て
いなかった。


「ママ、へんなブブ!!」


工事車両に興味津々の友
姫を乗せて、車を出す。


何か、凄くセンセーショ
ナルな場面に出会したみ
たいな気分になった。


あの人の目が、一緒、あ
たしを引き込んだ。