達也のその言葉に、瑞希は一瞬嬉しい気持ちになったが、すぐにそれは困ると思った。

なぜなら、受験が迫ってきても働くのを止めない瑞希を、達也は不思議に思うに違いない。そして、なぜ働くのかと、聞いて来るだろうから。


(私の事情を、クラスメートに知られたくない。特に池上君には……)


「中山さん…」

「あ、はい」

名前を呼ばれて顔を上げた瑞希のオデコに、達也の指がスーッと伸びた。

「下向いてたから、罰ね?」

「あっ」

ピシッ

達也の二度目のデコピンが瑞希のオデコにヒットした。一度目よりは、少し力が入っていた。

「痛い…」

考え事をして、つい俯いて歩いていたらしい。書店の前まで来ていた事にも、瑞希は気付いていなかった。

「ごめんね。でもルールだからさ」

そう言いながら、達也はまた瑞希のオデコを指でそっと擦った。

そこから火を点けられたように、瑞希の顔は急激に熱を帯びるのだった。