「おい、大丈夫か？」

達也はうずくまる少女に歩みより、声を掛けたが、少女からの返事はなかった。

今や珍しいとも言える、染めていない艶やかな黒髪に顔は隠れて見えないが、かなり小柄な少女である事は明らかだ。

達也は辺りに散乱した英語の参考書などを拾い集め、「どうした？ 立てるか？」と、もう一度少女に声を掛けた。

「た、立てます。ごめんなさい！」

少女の顔を覗き込むように見た達也の目と、少女の目が一瞬だけ合うと、少女は突然立ち上がり、達也に向かって深々と頭を垂れた。

その、ほんの一瞬見ただけだが、少女の目が酷く怯えていたように見え、達也は面食らってしまった。


「いや、お互い様だから、謝る事ないって」

「ごめんなさい。二度としませんから、どうか許してください」

「だからさ……、あんた俺の話聞いてる？」

達也がそう言っても、少女は下を向いたまま、「ごめんなさい」を繰り返すばかりだった。