瑞希の鞄は手提げタイプで、あまり見かけないものだった。近くで見ると、けっこう使い込んでる感じだ。まるで、誰かのお下がりみたいに。


支度が終わり、瑞希が鞄の取っ手に痛めていない方の左手を掛けた時、達也もそこに右手を出したので、瑞希の手の甲に達也の指が触れてしまった。

「あっ」

「ごめん。でも、鞄は俺が持つよ」

「え?」

瑞希が唖然としていると、達也はヒョイっと瑞希の鞄を持ち上げた。

「ど、どうして?」

戸惑う瑞希に、

「だって、中山さんは手を怪我してるだろ?」

と言って、達也は少しはにかみながら、白い歯を見せニコッと笑った。

その輝くような達也の笑顔を、瑞希は真夏の太陽よりも眩しいと思った。