「も、もう帰るよね?」

「はい……」

「じゃあさ、一緒に帰ろう?」

達也は、たったこれだけを言うのに、心臓はバクバクだった。


(何だよ、俺。こんな事ぐらいで、何でこんなに緊張してんだよ……)


達也がそんな戸惑いを抱いていると、「え?」と言って瑞希は再び顔を達也に向けた。

頬をほんのり紅く染め、小さな口を少し開けた瑞希の、黒目がちな大きな目で見つめられて、達也は経験した事もない胸のざわめきを覚えた。


瑞希もまた、戸惑っていた。
聞き違いでなければ、達也は『一緒に帰ろう』と言ったと思う。でも……


(一緒に帰るって?)


瑞希の中では、学校へ行くのも帰るのも、昔から一人きりが普通だった。

誰かと一緒にというのは、入学や転入の際に大人に連れられた時以外は経験がなく、イメージ出来なかったのだ。