瑞希にとって男性とは、自分に対して暴力という危害を加えるだけの存在だった。

だから、ひたすら『ごめんなさい』を繰り返し、相手の男性、つまり達也の許しを請う事しか考えられなかった。


(でも、あの人は私に優しかった……)


瑞希はぶつかった後、達也にぶたれると思ったが、そうはならなかった。
罵倒されたり、責められると思ったが、それもなかった。

そればかりか、飛び散った瑞希の参考書などを拾い集めてくれ、瑞希の手の異常に気付いてくれて、保健室に連れて行ってくれた。


(あの人は、恐い人ではないのかもしれない……)


それと、達也の声には優しさがあるように思った。だから、

「中山さん……」

その達也の声に、瑞希は思わず顔を上げていた。