錆びて赤茶けた鉄の階段を、春田のハイヒールがカンカンと音を鳴らせて2階へ上がると、ドアに消えかけてはいるものの“中山”と読める標札を見付けた。

「ここで間違いないわね」

春田が爪をマニュキアで赤く染めた指でブザーを押すと、達也はドアを拳でドンドンと叩いた。

少し待つと、カチャッという音と共にドアが細く開けられ、髪をボサボサにした40代と思われる女性が、さも迷惑そうな顔を覗かせた。

「こちらに中山瑞希さんという方は、いらっしゃいますか?」

春田はうっすらと笑みを浮かべ、落ち着いた様子でその女性に尋ねた。

「いるけど、あんたは?」

「私は瑞希さんが通う高校の校医です」

「あ…」

瑞希の母親らしいその女性は、春田が学校関係者と知ると、あからさまに動揺するのが分かった。