廊下の角でドンと衝撃を受けた瞬間は、何が起きたのか瑞希には分からなかった。

衝撃と共に後ろに飛ばされ、床についた右手に激痛が走り、飛び散った参考書などが気になるものの、すぐには動けずにいた。

その内に『おい、大丈夫か?』という男の声がして、瑞希はようやく男子にぶつかった事を知った。

そして、その声が自分に近付いて来ると、恐怖で体がすくんでしまった。

瑞希は、極度の対人恐怖症だ。
特に男性に対して、酷く恐れを抱いていた。

自分がぶつかり、そして近付いて来る男性が、3年になって同じクラスになった池上達也である事に、瑞希は気付いていた。

しかし、それで恐怖が薄れたわけではない。むしろ恐怖が増したと言ってよい。
なぜなら瑞希は、体が大きく、目つきの鋭い達也に、以前から恐怖を抱いていたからだ。