一方、瑞希は帰り支度を急いでいた。

包帯が巻かれた手首は、湿布と固定が効いたようで、動かさなければもう痛みはなかった。
その右手を見る度に、瑞希は今日の出来事と、達也の事に思いを馳せるのだった。

図書室に向かって小走りし、廊下の角を曲がった時は、まさか誰かとぶつかるとは思ってもみなかった。

昼休みに図書室で勉強するのは、3年になってからの瑞希の日課だった。

階段をひとつ上がればすぐ行ける図書室は、教室と違って静かで、しかも瑞希の大好きな沢山の本に囲まれ、瑞希にとってはまたとない憩いの場だ。

ところが、不思議な事に昼休みに図書室を利用する生徒はとても少なく、廊下で生徒とすれ違う事は非常に稀だ。だから、瑞希は注意を怠ってしまったのだ。