瑞希は、小麦色に日焼けした、達也の引き締まった上半身に見とれていた。そして、振り向いた達也と目が合うと、そんな自分が恥ずかしくて下を向いたのだった。

「おまえも入って来いよ」

「うん…」

瑞希は立ち上がって、ハイネの詩集を本棚に仕舞った。

「今度はハイネを読んでたんだ…。どうだった?」

「ん…よく分からない」

「そうか? 女の子向きだと思うけどなあ」

ハイネの切なくて情熱的な愛の詩が、恋愛経験のない瑞希にはよく分からなかったのだ。
そもそも愛が何なのかを、瑞希は知らなかった。


「あ、瑞希の着替えはリビングの買い物袋に入ってるからな。他にもシャンプーとか、色んなのを春田先生が買ってくれたみたいだから、持ってってな?」

「はい」