「どうしたんですか?」

話し掛けたまま黙り込んだ達也を、瑞希は不思議そうに見上げていた。

「ごめん。何でもない」

「あっ」

「え?」

瑞希は空いてる方の手を達也の額に伸ばすと、細い指をピンと弾いた。

「痛え…」

「“ごめん”って言ったから、お仕置きです」

「おいおい、それはおまえ限定だろ?」

「そうなんですか?」

「そうだよ。参ったなあ…」

達也はアハハと笑ったが、瑞希は達也の笑顔を眩しそうに見るだけだった。

(そこは笑うところだぞ?)

その時達也は思った。瑞希は笑わないのではなく、笑えないのだと。笑い方を忘れてしまったのかもしれない、と。

人はどんな生き方をすると、笑い方を忘れてしまうのだろう…

瑞希にどんな事情があるのかは分からないが、瑞希が酷く不憫に思え、思わず達也は瑞希を引き寄せると、その小さな体を強く抱きしめた。