過去を思い出してみると、瑞希の色々な表情を思い浮かべる事が出来たが、笑顔だけはどうしても思い出す事が出来なかった。

(瑞希は、俺の前で笑った事がない…)

達也には、家族は別として、他の誰よりも瑞希と親しくなっているという自信があった。

その自分の前で笑わないのなら、家の外では何処にいても、誰といても笑わないに違いないと思った。

(なぜだ? どうしてニコリともしない?)

達也はその疑問をそのまま本人にぶつけようとしたが、寸前のところでそれを止まった。

“どうして笑わないんだ? 笑えよ”と言うのは簡単な事だ。

しかしそれを言われた瑞希はどう思うだろうか。おそらく、責められたような気持ちになるだろう。

(考えてみれば、俺は瑞希の事を何も知らない。瑞希の事をもっと知り、なぜ笑わないのか知りたい。そして、瑞希に笑ってもらいたい…)