瑞希は一瞬教師に向かって顔を上げたが、隣や前の席の生徒の視線に合い、再び下を向いてしまった。

「おや。どうしたのかな?」

「彼女は右手を怪我してるんです。鉛筆も満足に持てなくて、授業にならないので保健室で治療させてください」

「ほお……そうなのかね、中山君?」

瑞希はようやくか細い声で「はい」と答え、俯いたまま頷いた。

「そうですか。では行って来なさい」

「ありがとうございます」


と返事をしたのは瑞希ではなく達也で、みなの注目の中、達也は瑞希の席まで歩いて行き、「さあ、行こうぜ?」と、俯いたままの瑞希に声を掛けた。


「池上君、保健室ぐらい一人で……」

それを見て教師はそう言ったのだが、

「いいえ。中山さんに怪我させたのは俺なんです。俺に責任がありますから、一緒に行きます」

「あ、そう」

達也の毅然とした態度に気圧され、教師は何も言い返せなかった。