教師が来て化学の授業が始まった。このクラスは、理系の進学クラスだ。

3年ともなるとみな大学受験を意識してか、授業態度も真面目になっている。達也も例外ではないが、今だけは授業そっちのけで横を向きっぱなしだ。


(あいつ、やっぱり……!)


中山という少女は、教師が黒板に書いた化学式をノートに書き写そうとしているらしいが、それが上手くいかないようで、よく見ると手が震えているのが分かった。

そして、俯いた少女の目の辺りから、涙らしき水の滴が一粒落ちるのを、達也は見逃さなかった。


「おい、圭介。保健室ってあるよな? どこか教えてくれ」

達也はクルッと後ろを向き、圭介に尋ねた。

「え? 確か東館の職員室の隣かそのまた隣だったと思うけど、どう……」


『どうしたの?』と続けようとした圭介の言葉を最後まで聞かず、達也は前を向くとガタンと大きな音をさせて椅子から立ち上がった。